【WTOパネル・上級委員会報告書解説⑫】カナダ-再生可能エネルギー発生セクターに関する措置(DS412)/カナダ-固定価格買取制度に関する措置(DS426)-公営企業および市場創設による政府介入への示唆-

執筆者 川瀬 剛志  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2015年5月  15-P-008
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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概要

カナダ・オンタリオ州は、温暖化対策を意図し、2009年より風力・太陽光発電電力の固定価格買取制度(FIT制度)を導入した。当該制度は従来の化石燃料使用の発電から風力・太陽光に代表される再生可能エネルギー電力への代替促進を目的としている。しかし、当該制度は発電設備の国産品優先使用(いわゆるローカルコンテンツ)要求を具有しており、環境政策上の動機とは離れ、州内への再生可能エネルギー発電設備産業の誘致・振興および雇用創出の策としての側面を有する。このため日・EUは当該措置の協定違反を理由とした紛争をWTOに付託した。

本件パネル・上級委員会は国産品優先使用要求の協定違反を認定するも、FIT制度自体による政府による再生可能エネルギー発電市場の創設自体はWTO協定の規律に服する補助金を構成しないとする画期的な判断を示した。本稿は本件判断を解釈論としての適否、先例としての意義、および貿易歪曲的な補助金の規律と環境政策の適切なバランスの観点から評価する。また、公営企業の活動に関する事案としての側面も有することから、併せて昨今TPP交渉で注目される国有企業(SOE)規律の観点から、この問題にWTO協定の果たす役割について示唆を得る。