要求金銭補償額の決定要因の実証分析

執筆者 鶴 光太郎  (ファカルティフェロー) /久米 功一  (リクルートワークス研究所) /戸田 淳仁  (リクルートワークス研究所)
発行日/NO. 2015年5月  15-J-019
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

成熟産業から成長産業への「失業なき労働移動」の実現に向けて、個別労働紛争の解決手段の多様化、とりわけ、金銭解決制度(解雇無効を前提として、労働契約関係を金銭と引き換えに解消する制度)が注目されている。先行研究では、あっせん、労働審判、裁判事例をもとに、解決金の分析がなされてきたが、紛争解決にかかる時間的・金銭的コストの負担から、紛争解決手段をとるまでに至らず、顕在化してこないケースも少なくない実態がある。そこで、 本稿では、解雇された場合に要求する解雇補償額を仮想的に質問して、金銭解決制度に関する潜在的なニーズを把握するとともに、要求金銭補償額の決定要因を実証的に明らかにした。その結果、勤続年数が長く、現在の賃金水準が高く、事前の主観的な失業確率が低い人ほど、要求金銭補償額が大きくなることがわかった。また、労働組合などの制度的要因も関係していた。これらの結果は、金銭解決制度を導入する際、欧州諸国のように現在の賃金や勤続年数が解雇補償金水準の重要な決定要因になることに一定の合理性を与えると考えられる。ただし、日本の場合、中高年の賃金はそもそも諸外国よりも勤続年数による影響をより強く受けて既に高くなっていることも考慮すべきである。また、国がその水準に対し一定の目安を示す場合でも他の要因も考慮されるように労使協定などで労使の事情が柔軟に反映される仕組みも検討の余地があろう。