| 執筆者 | 伊藤 公一朗 (研究員) ／Mar REGUANT (スタンフォード大学ビジネススクール) |
|---|---|
| 発行日/NO. | 2015年2月 15-E-015 |
| ダウンロード/関連リンク |
概要
日本でも自由化された電力卸売市場の制度設計が本格的に検討されています。アメリカ、イギリス、スペイン、ポルトガルなどの国では既に10年以上前に本格的な自由化市場の導入が行われました。そういった電力の卸売市場の設置において、市場効率性を高めるメカニズムとして必ず形成されるのが、先物市場（電力提供の1日前に取引が行われる市場）とスポット市場（電力提供の数時間前に行われる市場）です。理論的には2つの市場が完全競争的な市場を形成すれば、市場効率性は高まります。しかしながら、市場支配力が存在する場合、その理論的結論は成立しません。本研究では、まずは理論的にこの点についての証明を行いました。次に、スペイン・ポルトガルの電力市場の詳細なデータを用い、この理論的予測について実証分析を行いました。分析の結果、市場支配力の存在がデータによって示され、それが市場参加者の先物市場・スポット市場間でのインセンティブを歪めていることを示しました。次に、特に風力発電などのArbitrage（裁定取引）に有利な新規参入企業が、この歪められたインセンティブに戦略的に反応し、利ざやを稼いでいることを示しました。最後に、こういったArbitrage行為が社会厚生上望むべきかどうかについての理論的検証と実証的検証を行いました。完全競争市場ではArbitrageは必ず社会厚生を高めるものの、市場支配力が存在する市場ではこの法則が必ずしも成り立たないことを示しました。さらに、構造推定を用いて市場均衡分析を行い、実証的にArbitrageが社会厚生にどのような影響を与えるかについても示しました。
概要（英語）
We develop a theoretical framework to characterize strategic behavior in sequential markets under imperfect competition and limited arbitrage. Our theory predicts that these two elements can generate a systematic price premium. We test the model predictions using microdata from the Iberian electricity market. We show that the observed price differences and firm behavior are consistent with the model. Finally, we quantify the welfare effects of arbitrage using a structural model. In our setting, we show that full arbitrage is not necessarily welfare-enhancing in the presence of market power. It reduces consumer costs but decreases productive efficiency.
Published: Ito, Koichiro, and Mar Reguant, 2016. "Sequential markets, market power, and arbitrage," American Economic Review, Vol. 106(7), pp. 1921-1957
https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/aer.20141529
