貿易自由化実現のための補償措置は支持されるのか?―調査実験による実証分析―

執筆者 久野 新  (杏林大学)
発行日/NO. 2015年1月  15-J-002
研究プロジェクト FTAの経済的影響に関する研究
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概要

貿易自由化に伴う経済的損失を補償するための貿易調整支援(TAA)プログラムには、本来の救済機能に加えて、保護主義を抑制しつつ自由化を実現させるための政治的機能が備わっているとの指摘がある。そこで本稿では、日本の2742名分のサーベイ・データを用いた調査実験により、いかなる有権者が、いかなる目的でTAAを支持するかを詳細に検証した。

実証分析の主要な結論は以下のとおりである。(1)TAAの救済機能を意識させたcontrol groupの場合、貿易自由化により経済的損失を被ると懸念する人々ほどTAAを支持する傾向がみられた。(2)ただし、TAAは貿易自由化に反対する人々の全ての懸念に対応可能な万能薬ではなく、あくまでも人々の「経済的な懸念」を一部緩和する手段として効果が期待される。(3)TAAに備わる政治的機能も意識させたtreatment groupの場合、経済的損失を懸念する人々「以外」の回答者によるTAAの支持確率が追加的に高まる効果が確認された。

以上より、TAAは貿易自由化をめぐる懸念の一部を緩和しつつ自由化を推進するwin-winな手段となる可能性が示された一方、補償メカニズムの導入後も自由化が不十分である場合、政治的機能に期待した有権者によるTAAの支持はいずれ失われる可能性も示唆された。