アベノミクスと円安、貿易赤字、日本の輸出競争力

執筆者 清水 順子 (学習院大学) /佐藤 清隆 (横浜国立大学)
発行日/NO. 2014年4月  14-J-022
研究プロジェクト 為替レートのパススルーに関する研究
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概要

2012年末より歴史的な円高が是正され、1ドル100円前後という比較的円安の水準で安定的に為替相場は推移していたが、日本の貿易赤字は改善されるどころか、昨年よりも悪化している。2013年初めには、円安による輸入価格上昇によって当初は貿易赤字が増大するとしても、円安が徐々に輸出価格競争力を高め、輸出数量の増加とともに貿易収支も徐々に改善するというJカーブ効果が働くことが期待されていた。しかし、貿易収支が改善の兆しをみせないことから、根本的な問題は為替相場にあるのではなく、日本製品の国際競争力が低下していることにあるのではないかと危惧されている。

本稿では、上記の見解に対して以下の3点を指摘する。第1に、リーマンショック後の円高により、日本企業がアジアの生産拠点との国際分業を一層強化した結果、円安による工業製品の輸出増は同時に海外拠点からの部品輸入の増加も伴うことで、貿易収支改善効果が起こりにくい構造になっている。第2に、日本企業は海外市場で熾烈な価格競争に直面しているため、為替変動にもかかわらず現地の販売価格を安定化する行動(PTM行動)をとっている。実際にJカーブ効果の存在の有無を確認する実証分析結果からも2000年代は為替相場が貿易収支改善の効果をもたらしていないことが示された。第3に、産業別実質実効為替レートの動向を見ると、今回の円安で日本の主要産業が輸出競争力を高めていることが示唆される。したがって、円安が日本経済に与える影響については、全体としての貿易収支の動向を見て一喜一憂するのではなく、むしろ輸出競争力がどの程度回復しているのかを産業別に判断することが重要であろう。

※本稿の英語版ディスカッション・ペーパー:15-E-020