人口減少下における望ましい移民政策-外国人受け入れの経済分析をふまえての考察-

執筆者 萩原 里紗  (慶應義塾大学) /中島 隆信  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2014年3月  14-J-018
研究プロジェクト 人口減少下における望ましい移民政策
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概要

本論文の目的は、移民の受け入れが国内経済に及ぼす影響について、経済成長率、イノベーション、産業構造の高度化、賃金、雇用、失業、社会保障、財政という観点から既存研究のサーベイを行い、世界にも例を見ない少子高齢・人口減少社会を迎える日本にとって望ましい移民政策を探ることである。

サーベイの結果、高度な技術・技能を有し、受入国の標準語でのコミュニケーションが可能な人材を受け入れることができれば、受入国の経済成長を促進し、自国労働者の社会保障負担を軽減し、財政安定化にも寄与するなどのよい影響をもたらすことが確認された。

このことは近年、語学力、学歴、収入などで一定の要件を満たした移民のみを受け入れるという選択的移民制度が世界の主要国で導入されていることと整合的である。しかし、こうした「政策」は「いい移民ならば受け入れたい」という受入国のエゴ以外の何ものでもない。

また、低成長に加え、今後の人口減少が深刻化する日本では、移民に担い手不足の農業や労働集約的な看護や福祉サービスに従事してもらえばよいという意見が根強い。しかし、それは低成長と少子高齢化によって生じた財政赤字を大量の国債発行によって将来世代につけ回してきたのと同じ発想による問題の先送りである。日本の社会構造を変えない限り、移民も日本で生活を始めれば同じ問題に巻き込むことになる。

日本にとって望ましい移民政策は、国内事情とは関係なく、長期的な視野に立って考えなければならない。すなわち、移民を異質なものとして排除するのではなく、それを受け入れ、共存するといった多文化共生の考え方である。そうした考え方は、障害者や女性の活用促進といった日本国内の課題の解決にもつながるだろう。