投資仲裁における精神的損害賠償

執筆者 玉田 大  (神戸大学)
発行日/NO. 2014年2月  14-J-013
研究プロジェクト 国際投資法の現代的課題
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概要

ISDSは投資財産という経済的利益を保護するものと考えられてきたが、近年の仲裁例では、精神的損害(非物質的損害)に対する賠償が容認される事例がみられるようになってきた。これは、ISDSの性質の変化を意味するのであろうか。関連する仲裁例を分析すると、以下の点が明らかになる。(1)2008年から2011年にかけて、仲裁判断の内容が変遷している。すなわち、DLP事件では主観的要件(故意・過失)が重視されていたが、その後、Lemire事件では客観的要件(原因と結果の重大性)を重視する立場に変わっており、精神的損害賠償が認められる場合は狭められている。(2)一般に、法人が直接的に被る精神的損害(例:評判や信頼の喪失、ビジネス機会の喪失)は容認されるが、それに加えて、法人関係の自然人(特に会社役員)に対する精神的損害(例:逮捕、拘禁、国外追放、脅迫)についても、法人の精神的損害に包含することによって救済する例が見られる。近年、投資受入国による介入は後者のタイプのものが散見されるため、投資家側としては救済可能性が広がる点で注目に値する。(3)精神的損害賠償を通じて、条文上は禁止されている懲罰的損害賠償が認められているのではないか、という点が争点となっている。本稿では、最新の仲裁例で上記の点を分析した上で、投資家側と投資受入国側のそれぞれが精神的損害賠償請求にどのように対処すべきかを示す。