東日本大震災による漁業と水産加工業の復旧政策の評価分析 -動学的応用一般均衡モデルを利用して-

執筆者 阿久根 優子  (麗澤大学) /沖山 充  ((株)現代文化研究所) /徳永 澄憲  (筑波大学)
発行日/NO. 2013年11月  13-P-022
研究プロジェクト 持続可能な地域づくり:新たな産業集積と機能の分担
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概要

日本の漁業と水産加工業は、東日本大震災以前から長期にわたって生産縮小が続いており、その中で、震災により漁船や加工施設など多くの民間資本ストックが滅失し損傷を受けた。復旧・復興の評価分析は、経済メカニズムを内包するモデルを用いて、震災がなかった状態での生産水準を以って行われるべきであるが、今回の大震災における我が国の漁業と水産加工業についてそのような分析はみあたらない。そこで本稿では、漁業と水産加工業を中心とした動学的一般均衡モデルを構築し、東日本大震災による両産業での復旧政策について初めて定量的に評価分析を行った。その結果、現行政策は、震災10年後の2021年での生産回復には不十分であった。また、1993年の奥尻島の水産業の復旧状況と同様に、震災5年後の2016年に生産回復するのに必要な民間資本ストックの復旧総額を試算すると被害額の86%であり、生産縮小も続く中で復旧後の資本ストックは震災以前を下回る。そこで、同様の目標で生産性上昇を想定した場合、漁業と水産加工業全体の生産水準は、震災がなかった場合を上回って推移した。ただし、漁業の生産は上昇基調に変わったが、その2倍の生産規模の水産加工業の生産低下基調は変わらなかったので、両産業全体での生産縮小は続く。したがって、持続可能な生産活動のために生産性を向上させる場合、漁業では復旧を目標に、水産加工業では効率的な水産クラスターの構築に必要な研究開発や投資を促進する政策を重点的に行い、復旧を越えた生産水準を目標することが不可欠である。