文化的財の国際貿易に関する実証的分析

執筆者 神事 直人  (京都大学) /田中 鮎夢  (リサーチアソシエイト)
発行日/NO. 2013年9月  13-J-059
研究プロジェクト 現代国際通商システムの総合的研究
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概要

本稿では、文化的財の国際貿易について、その現状と決定要因に関する分析を行う。まず国連の統計データを用いて、クリエイティブ財・サービスの国際貿易の現状について概観する。中国がクリエイティブ財の最大輸出国かつ最大貿易黒字国である一方、米国はクリエイティブ財の最大貿易赤字国であり、日本も米国に次ぐ貿易赤字国であることを示す。次に、重力方程式を用いて文化的財の貿易額の決定要因を探る。分析の結果、GDPや二国間距離等、通常の決定要因との相関は非文化的財よりも文化コア財のほうが相対的に小さいのに対して、共通言語や旧植民地関係等の歴史的・文化的要因との相関は前者より後者のほうが大きいという結果が得られた。さらに、WTOおよび文化多様性条約の加盟状況との関係を分析したところ、文化多様性条約の批准は文化コア財の輸出との間で概ね統計的に有意な正の相関がある一方で、文化コア財の輸入に対しては、WTO加盟国であれば統計的に有意な正の相関がみられた。本稿の分析からは、文化多様性条約が文化的財の貿易を阻害しているという証拠は発見されなかった。