大学院教育と就労・賃金:ミクロデータによる分析

執筆者 森川 正之  (理事・副所長)
発行日/NO. 2013年6月  13-J-046
研究プロジェクト サービス産業に対する経済分析:生産性・経済厚生・政策評価
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概要

人的資本は長期的な経済成長を規定する重要な要因である。本稿は、「就業構造基本調査」(2007年)のミクロデータを使用し、大学院卒業者の就労および賃金について学部卒の労働者と比較しつつ観察事実を示すものである。分析結果の要点は以下の通りである。(1)大学院卒業者は学部卒に比べて就労率が高く、特に女性や60歳以上の男性で顕著である。大学院卒女性の場合、結婚や夫の所得が就労に及ぼす負の影響が小さい。雇用形態別には、大学院卒業者は正規雇用に就いている確率が高い。(2)個人所得で見ても世帯所得で見ても、大学院卒業者は高所得者が多く貧困率が低い。(3)大学院卒は学部卒比で約30%の賃金プレミアムがある。ただし、その大きさは産業や就労形態によって異なり、公務で非常に小さく、自営業主で非常に大きい。(4)大学院賃金プレミアムの男女差はほとんどない。(5)大学院卒の労働者は60歳を超えてからの賃金の低下が小さい。(6)大学院教育投資の私的収益率は10%以上である。技術の高度化が進む中、イノベーションの担い手を育てる大学院教育の充実は日本経済にとって高い意義を持っていること、また、大学院修了者の増加は、長期的に女性や高齢者の就労拡大に寄与する可能性もあることを示唆している。

※本稿の英語版ディスカッション・ペーパー:13-E-065