公的債務の蓄積が実体経済に与える影響に関するサーベイおよびVector Error Correctionモデルによる財政赤字の波及効果分析

執筆者 庄司 啓史  (一橋大学国際・公共政策大学院)
発行日/NO. 2013年6月  13-J-040
研究プロジェクト 経済成長を損なわない財政再建策の検討
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概要

日本では歴史的な低金利が継続する一方、ユーロ圏では、マーケットからのリスク・プレミアム要求によるソブリン危機が発生している。先般、我が国では消費増税を含む社会保障・税一体改革関連法案が可決・成立した。しかしながら、公的債務の蓄積が実体経済に与える影響に関する研究の蓄積は不足しており、議論の過程でも理論的な議論は乏しかった。そこで本稿は、公的債務の蓄積が実体経済に与える影響に関する理論的な整理を行うために、理論経済モデルおよび当該分野の実証研究のサーベイを行う。さらに、Vector Error Correctionモデルによる財政赤字の波及効果分析を行うことにより、公的債務の蓄積が実体経済に負の影響を持つかどうかを検証する。

サーベイおよび実証分析の結果、公的債務の蓄積は、(1)民間部門への資金供給を阻害すること、(2)実質金利の上昇あるいは、期待収益率の低下に伴う設備投資機会の低下、(3)財政の硬直化に伴う社会資本ストックの低下――により、有形・無形固定資本投資の低下および中間投入減を通じたTFPの低下に起因した、実体経済に対するマイナスのインパクトを持つという仮説設定が可能であることが導かれた。