日系多国籍企業の国内外の生産性水準に関する比較分析

執筆者 伊藤 恵子  (ファカルティフェロー) /田中 清泰  (日本貿易振興機構アジア経済研究所)
発行日/NO. 2013年4月  13-J-023
研究プロジェクト 東アジア企業生産性
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概要

主要な多国籍企業では、海外に多くの拠点を持ち、国内の活動規模を超える生産・販売活動が海外で行われていることが多い。このため、親会社だけでなく、海外のグループ企業も含めたグローバルなパフォーマンスを評価しなければ、真の企業パフォーマンスを測定することは難しい。このような問題意識のもと、本稿では、「企業活動基本調査」と「海外事業活動基本調査」の個票データを親会社レベルで接続したデータを利用して、日本の製造業の多国籍企業について、親会社と海外現地法人の生産性の比較分析を行った。

産業別の産出と投入に関する購買力平価(PPP)を利用し、日本の親会社と主要国の現地法人との付加価値労働生産性水準を比較した。その結果、製造業平均でみると、在米国、在台湾現地法人では2000年代初頭にすでに日本の親会社を上回る生産性を達成しており、在韓国現地法人も2008年時点には日本の親会社の生産性水準に到達していた。在中国現地法人の生産性は、まだ格段に低い水準にあるものの、1996年の時点と比べて、徐々に親会社にキャッチアップしている。さらに、回帰分析から、親会社の生産性が高いほど現地法人の生産性も高く、また親会社と比較した生産性水準が低い現地法人ほど生産性のキャッチアップも速いことが示された。この結果から、親会社がより高い生産性を実現すれば、現地法人もその水準にキャッチアップしていく可能性が高く、結果的に多国籍企業全体の生産性も向上していくことが示唆される。