特許の私的経済価値指標としての特許引用と引用三者閉包

執筆者 和田 哲夫  (学習院大学)
発行日/NO. 2012年9月  12-J-030
研究プロジェクト イノベーション過程とその制度インフラのマイクロデータによる研究
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概要

特許の経済価値に関する実証研究には豊富な蓄積があり、特許被引用数が経済価値指標の性質を持つことに一定の合意がある。ただ、審査官特許引用と発明者・出願人による特許引用の区別が、価値指標としてはどのような違いをもたらすのか、考察した研究は未だ多くない。本研究は、我が国の特許データに基づく審査官引用と発明者引用の間で、推移性や密度などネットワークとしてみた特許引用の性質に大きな違いがあることに着目し、それら違いが特許の私的価値指標としての性質にどのような関係を持つか、探求した。具体的には、登録された特許の権利維持期間の長さが私的価値代理指標となる性質を用いて、付加される審査官引用・発明者引用がそれぞれ私的価値に正の影響を与えていることにつき生存分析を用いて確かめた。さらに、企業内・企業外の引用の三者閉包(triadic closure)の形成が特許権の維持期間に及ぼす影響を検討したところ、審査官引用による三者閉包は統計的に有意な指標であることがわかった。引用情報の中で審査官引用はノイズと解釈されることもあるが、「特許の藪」とも呼ばれる特許権の稠密性が権利の経済価値に与える影響は、審査官引用の活用によってより詳細に分析できる可能性を示している。