海外市場情報と輸出開始:情報提供者としての取引銀行の役割

執筆者 乾 友彦  (日本大学) /伊藤 恵子  (ファカルティフェロー) /宮川 大介  (日本政策投資銀行) /庄司 啓史  (衆議院)
発行日/NO. 2012年7月  12-J-025
研究プロジェクト 東アジア企業生産性
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概要

本稿は、海外市場に関する情報の多寡が企業の輸出行動へ与える影響について、実証的に分析したものである。海外市場に関する企業間の情報共有に着目した既存研究とは異なり、本稿では、最大貸し手銀行(メインバンク)による情報提供の効果に焦点を当てている。日本企業の輸出データに加えて、各銀行が輸出企業との金融取引を通じて取得した海外市場情報に関連する変数を用いて、メインバンクによる海外市場情報の提供が、企業の輸出行動に与える影響を分析する。得られた結果は、メインバンクの提供する情報が、顧客企業の輸出開始の決定(extensive margin)に対して、正の影響を持つことを示している。これは、メインバンクの持つ海外市場に関する情報が、企業の情報収集コストを減少させることなどを通じて、輸出開始にかかる固定コストを低減させることを示唆している。他方、メインバンクによって提供された情報が、企業の輸出量または輸出の成長率(intensive margin)に対して影響を持つという実証的な結果は得られなかった。