公的負担と企業行動-企業アンケートに基づく実証分析-

執筆者 小林 庸平  (コンサルティングフェロー) /久米 功一  (名古屋商科大学) /及川 景太  (コンサルティングフェロー) /曽根 哲郎  (コンサルティングフェロー)
発行日/NO. 2012年4月  12-J-010
研究プロジェクト 経済成長を損なわない財政再建策の検討
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概要

急速な少子高齢化が進む我が国にとって、企業の成長と税・社会保険料の負担の両立は喫緊の課題であるが、これまでの企業負担に関する研究は、社会保険料事業主負担の賃金への帰着問題に関するものが多かった。そこで、本稿は、公的負担に関する企業アンケートを用いて、社会保険料(年金・医療)と法人実効税率の性質の違いに注意しながら、労働調整・資本調整の選択や、賃金調整・雇用調整、正規労働・非正規労働の調整、企業の前転(価格への転嫁)・後転(労働者への転嫁)の選択、時間軸における対応の違いの可能性について定量的に分析した。

その結果、企業は多様な負担吸収・利益分配行動をとる用意があること、社会保険料の変化は正規労働者の賃金・雇用に大きな影響を及ぼすが、法人実効税率は設備・研究開発投資に影響を及ぼす傾向が強いこと、正社員に対するパート・派遣の関係性が異なること、短期的には利益の増減で対応する傾向が強いが、中期的には雇用や賃金、設備・研究開発投資、製品・サービス価格で対応する割合が高くなることなどがわかった。

これらの結果は、公的負担の議論や制度設計において、社会保険料事業主負担の賃金への帰着の問題だけでなく、公的負担が及ぼす企業行動への多様な影響や、調整コストの違いを考慮する必要があることを示唆している。

出版情報:小林庸平・久米功一・及川景太・曽根哲郎(2015)「公的負担と企業行動-企業アンケートに基づく実証分析-」『季刊・社会保障研究』Vol.50(4), pp. 446-463
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/kikan/5004.html