現代・起亜自動車の合併に関する定量的評価

執筆者 大橋 弘 (ファカルティフェロー)/遠山 祐太 (東京大学)
発行日/NO. 2012年4月  12-J-008
研究プロジェクト グローバル化・イノベーションと競争政策
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概要

本稿では、1998年韓国での現代自動車と起亜自動車の水平合併を定量的に評価する。当該合併によって生じたであろう競争制限効果および効率性向上効果を勘案したうえで、現代・起亜自動車合併が韓国の国内市場および輸出市場に与えた影響を経済厚生の観点から分析する。車種レベルの市場データを使って構造推定を行ったところ、当該合併によって現代・起亜自動車における車種別の限界費用は8.4%低下したことが分かった。推定結果を踏まえたシミュレーション分析の結果、当該合併は韓国の国内価格を平均わずか1%に満たない割合の上昇しかもたらさなかったのに対し、韓国からの輸出は当該合併によって倍以上に拡大したことが明らかになった。しかし、合併が与えた影響は車種によって一様ではなく、国内価格については大型車の国内価格は約0.3%下がったものの、国内販売台数シェアでほぼ7割を占める軽・小・中型車の国内価格は2%上がっている。車種による当該合併の影響の違いは、韓国自動車市場における需要関数と費用関数との関係に起因しており、当該合併による効率性向上効果が軽・小型車では輸出増にのみに影響を与えたのに対し、大型車については輸出増と国内価格の下落の双方を促したことが分かった。当該合併によって、韓国における社会厚生は約9%上昇し、そのうち輸出から得られた企業利潤の増加が8割以上を占めると推定された。

本稿における現代・起亜自動車の企業結合事案の定量分析を通じて、一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合であっても、企業結合の効率性向上効果が輸出の活性化を通じて消費者厚生の減少分を上回る社会厚生の向上を生み出すことがあり得る点が分かった。この論点は企業の輸出行動を勘案して初めて明らかになった点であり、国内産業の合理化・集約化と共に「国際競争力」の強化が喫緊の課題となっているわが国において、現行の企業結合規制が持つ限界を示唆するものとなっている。

Published: Ohashi, Hiroshi, and Yuta Toyama, 2017. "The effects of domestic merger on exports: A case study of the 1998 Korean automobile industry," Journal of International Economics, Vol. 107, pp. 147-164
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022199617300387