執筆者 | 石井 芳明 (コンサルティングフェロー) |
---|---|
発行日/NO. | 2011年9月 11-P-016 |
研究プロジェクト | 我が国のリスク資金供給の現状と政策課題 |
ダウンロード/関連リンク |
概要
ベンチャー企業はイノベーションと雇用を創出し、経済の発展において重要な役割を有する。日本においては、1990年代からベンチャー企業の創出と育成を図る政策の必要性が強調され、さまざまな支援がなされるようになっている。しかし、米国のようにベンチャー企業が経済を牽引する状況が日本で実現しているわけではない。今後の日本経済の成長戦略を考える上で、ベンチャー政策について再度考察すべきではないだろうか。
ベンチャー企業の成長にとって、ベンチャーキャピタルと彼らが供給するリスク資金は重要であり、ベンチャー政策においても支援の柱となる。このため、経済産業省(当時、通商産業省)では、1999年にベンチャーファンド事業を創設した。このプログラムは、ベンチャー企業の成長促進を目的とし、創業初期のベンチャー企業に投資し経営を支援するファンドに対して、公的資金を供給するもので、2010年時点で85の支援ファンドから2000を超えるベンチャー企業へのファイナンスが実施されている。ベンチャーファンド事業、ひいてはベンチャー政策の公的支援は、ベンチャー企業を育て経済活性化に貢献しているのか。制度創設から10年が経過した今、客観的な政策の評価をする時期になっている。
日本においては過去、ベンチャー政策の評価研究がほとんどなされてこなかった。ベンチャー政策の評価研究の蓄積がある欧米からはかなり遅れているのが実情である。ベンチャーファンド事業に関しては実施機関による中間評価があるのみで、客観的な分析がなされていない。そこで、本稿では、ベンチャーファンド事業についてマッチング分析などのデータ分析とアンケート、ヒアリングによってその効果を客観的に検証し、ベンチャー政策の客観的な評価研究の先駆け事例となることを目指した。
結果として、ベンチャーファンド事業は支援先ベンチャー企業の売上や雇用の拡大に一定の貢献をし、ベンチャーキャピタル業界の育成にも効果があることが確認できた。その反面、ベンチャー企業の成長促進という本来の政策目的に地域振興やバイオ産業振興など他の政策目的を追加したファンドにおいては、収益性の面で問題があることが分かった。ベンチャー政策については、実証研究による客観的な評価を重ねて学術的な観点から示唆を導き出し、政策実務への貢献を図る必要がある。