「多様な正社員」と非正規雇用

執筆者 守島 基博  (一橋大学)
発行日/NO. 2011年4月  11-J-057
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

現在、「多様な正社員」施策の導入には大きな期待が寄せられている。正社員と非正社員間の格差問題への対応としての位置づけと、正社員雇用の強みを活かしながら、働く人のワーク・ライフバランスの達成をこれまでより可能にするための位置づけもある。本稿では、こうした議論を前提として2つのテーマを扱った。

1つは、「多様な正社員」施策を取り入れている企業の特徴把握である。特に、雇用管理、評価・処遇、人材育成、非正社員の活用、ワーク・ライフバランスなど、企業が行うその他の人事管理のあり方に注目した。その結果、こうした企業は、「多様な正社員」施策を含んだ、正社員を対象とした堅固な内部労働市場の柔軟化を目指している可能性が示唆された。こうした企業は、ワーク・ライフバランスや女性人材活用に関しても積極的である。また、非正社員の活用に関しては、特に契約社員と派遣社員について、単なる人件費削減や雇用需要の変動への対応という目的だけではなく、これらの人材を経営上より重要な位置づけとして認識している可能性が高いことがわかった。

そして、もう1つのテーマが「多様な正社員」施策が働く人の意識に与える影響である。結果としては、「多様な正社員」施策は、雇用形態がどうであろうとも、正社員として雇用されている人材に対しては大きな影響をもたないことが示された。これに対して、非正社員については、「キャリアパス」と「仕事内容」について両方とも区分をした「多様な正社員」施策は、働く人の意欲や格差納得感とプラスの関係を示し、「キャリアパス」の区分のみの場合、マイナスの関係がみられた。その他の結果とも総合して、ここからは人材ポートフォリオ管理を、単にキャリアパスの区分だけではない、一貫した戦略に基づいて行う企業は、「多様な正社員」施策から良い効果を得ることが期待されるのではないかという示唆が得られた。