貧困と就業―ワーキングプア解消に向けた有効策の検討―

執筆者 樋口 美雄  (慶應義塾大学) /石井 加代子  (慶應義塾大学) /佐藤 一磨  (明海大学)
発行日/NO. 2011年4月  11-J-056
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

わが国では就業していても貧困である世帯が多いということが、貧困の国際比較研究から明らかになっている。このようなわが国の貧困の特徴を踏まえて、本稿では、慶應家計パネル調査(KHPS)2004-2010のデータを用い、わが国における貧困と就業との関係について分析を行った。分析の結果、わが国では非正規労働者として就業している世帯において失業や無業世帯よりも貧困率が高いこと、しかしながら、貧困層からの脱却割合を前年の就業状態別に見ると、無業であった世帯に比べ、非正規雇用であっても就業している世帯のほうが脱却割合の高いことがわかった。一方で、正規雇用においては、貧困率がもっとも低く、非正規から正規雇用への転換が貧困解消の1つの有効な策であることが示唆された。そこで非正規雇用から正規雇用への転換の促進に有効な政策支援を分析してみると、自己啓発を行っている人の転換割合がとくに女性労働者において有意に高いことがわかり、自己啓発といった能力開発への専門家による助言や資金的・時間的支援が有効であることが示唆された。また、失業者の貧困対策として、失業保険受給の資格の有無、および実際に受給したかどうかの別に貧困からの脱却割合を比べると、失業保険に加入しており、給付を受けながら、就業支援を受けた人でその割合は高く、加入していなかった人で最も低いことがわかった。すなわち、失業給付は失業時の所得保障の役割を担うだけではなく、これとセットとして行われる就業支援により、その後の就業確率も高める効果をもっていることが確認された。他方、失業保険に加入していなかった失業者の場合、もともと雇用条件の良くない雇用機会に就いていた人が多く、今後、こうした人への所得保障と就業支援の強化が求められる。