研究開発のスピルオーバー、リスクと公的支援のターゲット

執筆者 長岡 貞男  (ファカルティフェロー) /塚田 尚稔  (研究員)
発行日/NO. 2011年4月  11-J-044
研究プロジェクト イノベーション過程とその制度インフラのマイクロデータによる研究
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概要

本研究では、研究開発からの知識のスピルオーバー(科学技術論文などから)と研究開発へのリスク資金制約が、どのようなプロジェクトや企業で重要であるか、また研究開発への公的支援がどのようなプロジェクトや企業にターゲットされており、これらはどの程度整合的かを実証的に研究する。利用するデータは経済産業研究所の発明者サーベイと企業活動基本調査であり、民間企業に所属している発明者の研究プロジェクトにフォーカスする。主要な結果は以下の通りである。先ず、民間企業に所属している発明者の研究においても、研究プロジェクトの20%において基礎研究の段階を含むなど、かなりのスピルオーバーがあると考えられる。他方で、発明者サーベイによれば、民間企業の研究開発プロジェクトの1割程度にはリスク資金の不足によって研究の縮小・遅れがあり、約4分の1には事業化投資への制約がある。また、日本の民間企業の研究開発プロジェクトの3%程度のみが政府資金の支援対象であり、資金制約があるプロジェクトではその5.6%が支援対象となっている。本論文の統計的な分析結果によれば、政府支援が行われているプロジェクトの条件は、科学技術論文発表、セレンディピティーなどを指標とするスピルオーバーの発生条件と、全体的には整合しているが、企業の研究開発集約度の高さや博士号所有者の研究プロジェクトへの参加が高いスピルオーバーをもたらすと考えられるが、現状の政府支援の選択条件としてはそれほど高く評価されていない可能性も示唆されている。