【WTOパネル・上級委員会報告書解説③】
中国-出版物等の貿易権及び流通サービスに関する措置 (WT/DS363/R, WT/DS363/AB/R)
―非GATT規定違反のGATT20条正当化の可否を中心に―

執筆者 川島 富士雄  (名古屋大学)
発行日/NO. 2011年4月  11-P-013
研究プロジェクト WTOに関する総合的研究
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概要

WTOパネルおよび上級委員会は、中国の出版物等の貿易権および流通サービスに関する措置事件において、米国の主張を受け入れ、中国の措置が、第1に、中国WTO加盟議定書における貿易権供与義務に違反し、GATT20条a号によって正当化されない、第2に、GATS16条、17条およびGATT3条4項にそれぞれに違反するとの報告書を下した。本報告書は、第1に、中国WTO加盟議定書における貿易権供与義務規定について初めて解釈を示した。第2に、同規定の適用される客観的範囲の確定を通じ、「物品」の範囲に関する重要な先例を提示した。第3に、GATT以外の規定違反に対するGATT20条援用可能性を初めて明確な形で認めた。第4に、公徳(public morals)の保護のために必要な措置の正当化を認めるGATT20条a号について初めて解釈を示し、国家による検閲措置の具体的実施方法のWTO適合性という極めて機微に触れる問題を扱った。第5に、中国のサービス約束表上の「音楽録音の流通サービス」は、電子的な手段による流通も含むとの解釈を示した。本稿は、本報告書の事案と判断を紹介した上で、WTO協定および中国加盟議定書の解釈に分析を加え、そこで示された解釈が将来の紛争に対しどのような示唆を与えるか検討する。