中小企業金融における銀行の融資決定メカニズム・中小企業データ分析と中小企業へのリスクマネーの提供

執筆者 吉野 直行  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2011年3月  11-J-028
研究プロジェクト 我が国のリスク資金供給の現状と政策課題
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概要

本研究では、アンケート調査に基づく中小企業への融資の際のソフト情報の利用、融資の決定権限などについての現状でのまとめを報告するとともに、中小企業データの整備による情報の非対称性の軽減、データ分析に基づく中小企業に対する格付けの付与、さらに、地域の中小企業へのリスクマネーの提供について提言する。

第1章では、都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合を合わせた299の金融機関からのデータと、ヒアリングをもとにした分析の一部である。

(i)非財務・非数値情報、(ii)非公開情報、(iii)第3者による証明が困難な情報、から構成される「ソフト情報」が、どの程度活用され、これが各金融機関の組織構造とどのように関係しているかを考察している。小規模の銀行とか小企業と取引が多い金融機関は、ソフト情報が重要視される。というのは、企業自身のデータがしっかりしていないため、ソフト情報に頼らざるを得ないからだと思われる。また、“本店”での決済では、ソフト情報が重要視されない傾向がある。しかし、“支店”での最終決済のところでは、融資審査のソフト情報が用いられることがあり、支店のレベルではソフト情報が重視される傾向があるといえる。

第2章では、中小企業のデータを集めることによって、倒産確率を導出したり、中小企業の格付けを行える手法が、展開されている。

日本の場合は、約6割の中小企業が信用保証を使っている。CRD(credit risk database)がこのデータを集めて、それを統計処理し、倒産確率などの分析をしている。2001年にCRDが設立され、2010年の3月では、1100万程度のデータが集まっている。倒産した企業のデータも136万8000のデータ、個人企業のデータも292万データある。財務データ、非財務データも含めて収取しており、倒産確率を出している。この倒産確率をもとに、各金融機関は、貸出し金利をそれぞれの企業について求めている。このような中小企業データの収集をアジアで展開するには、タイ・インドネシア・マレーシアなどで、具体的にどのような組織を通じてデータを集める方法があるのか、今後の課題である。アジア各国で中小企業の同様のデータが集められるようになれば、アジア全体で、中小企業の分析が行え、中小企業の格付けも可能となると思われる。

最後に、金融機関が預金で集める資金をミドルリスク企業に融資するのではなく、金融機関の窓口を通じて、地域の投資信託・地域ファンドとして、少しリスクはあるが、成長性の高い企業やプロジェクトに資金を提供する方法を提案する。ただし、闇雲に、ファンドを作ればよいという訳ではない。「目利き」がいなければ、さまざまな地域育成のための投信・ファンドは、すべて元本割れとなってしまい、投資家に損失を被らせるだけに終わってしまいかねない。こうしたファンドは、地元の金融機関の窓口を通じて販売する方法、インターネットを通じて投資家を募る方法など、さまざまな販売ルートが考えられる。日本人が得意としてきた互助の精神を生かし、地域の貢献につなげられるファンド・投資信託である。