中国の経済大国化と中台関係の行方

執筆者 伊藤 信悟  (みずほ総合研究所(株))
発行日/NO. 2011年1月  11-J-003
研究プロジェクト 中国の台頭と東アジア地域秩序の変容
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概要

中国の経済大国化は、中国政府が対台湾政策実現のために動員しうる影響力の源泉をより豊かなものにしている。台湾を睨んだ軍備拡張、中華民国承認国との国交樹立、国際組織からの台湾の排除などに用いうる中国政府の経済的資源が高成長により増大したことは確かである。また、中国の高成長は、台湾の対中経済依存度を引き上げさせる原動力ともなった。台湾当局は対中経済依存度の高まりによる中国政府の統一攻勢の激化を警戒してきたが、台湾経済界の動きを追認する形で対中経済交流規制の緩和を断続的に行なわざるをえなかった。そして今では、台湾の対中経済依存度のほうが中国の対台湾経済依存度よりも高い「非対称型相互経済依存関係」が中台間で顕著になってきている。中国政府は近年積極的な統一促進よりも台湾の独立阻止に当面の対台湾政策の目標を置いているとみられるが、こうした中台間の非対称型相互経済依存構造の形成が台湾独立のコストを高めるうえで一定の役割を果たしてきたと推察される。しかし、他国の事例から判断しても、経済制裁で台湾との統一を実現するのは容易ではないと考えられる。中国政府が経済発展のみならず、民主化、社会の安定を実現し、かつ、台湾市民の自決と尊厳を保障する統一・統合モデルを提示できるか否かが、台湾との平和的な統一・統合の成否を分ける大きな鍵となるだろう。