グローバルインバランス、東アジア通貨間乖離と国際協調の必要性―AMUによる分析等

執筆者 伊藤 隆敏  (ファカルティフェロー) /小川 英治  (ファカルティフェロー) /清水 順子  (専修大学)
発行日/NO. 2010年12月  10-P-023
研究プロジェクト 東アジアの金融協力と最適為替バスケットの研究
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概要

本稿では、「東アジアの金融協力と最適為替バスケットの研究」における成果をまとめている。その主な柱は、日本の輸出インボイス通貨選択、為替相場のパススルー、AMUとAMU乖離指標、東アジアにおける地域通貨協調、そして、中国人民元問題である。

他の先進国と比較して円建て輸出のシェアが極めて低いという日本のインボイス通貨選択は、海外現地法人の設立による企業内貿易の増加とアジアに設立された生産拠点から米国市場へ輸出するという生産販売構造に起因する。この特徴は輸出企業の中でも最も規模の大きい企業群のインボイス通貨選択行動を反映している。この結果より、日本とアジア各国の為替取引の環境整備と域内為替政策協調の重要性が確認された。

為替相場のパススルーについては、近年日本においてパススルー率の低下が認められるが、理論上はパススルーの程度が為替変動に対する国内経済の反応や金融政策の効果に大きな影響を与えることが指摘された。

RIETIのウェブサイトで公表されているアジア通貨のAMU乖離指標は、円キャリートレードが活発化した2005年1月以降、それぞれ乖離する傾向を示し、世界金融危機がそれに拍車をかけた。アジア通貨の域内安定を目指した為替協調政策を推進するためには、AMUおよびAMU乖離指標を用いた域内為替協力が必要となる。

2005年7月21日に公表された人民元改革は、ドルペッグ制度から通貨バスケットを参照とした管理フロート制度への移行であったが、実際には実施されていないことを実証的に明らかにした。さらに、中国を中心にアジア域内貿易が著しく拡大しているという実体経済面の要因を重視した手法で推計された人民元の均衡名目為替相場は、中国の経常収支黒字が急増した2005年から2008年にかけて増価傾向を示している。人民元相場の過小評価が示唆される。