日本企業の海外アウトソーシング―ミクロ・データによる分析―

執筆者 冨浦 英一  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2010年12月  10-P-020
研究プロジェクト 日本企業の海外アウトソーシングに関する研究
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概要

激化する国際競争の中で、情報通信技術の発達・普及、貿易・投資の自由化等を背景に、企業は、低コストの供給源を求めて発展途上国にまでサプライ・チェーンをグローバルに伸ばしている。部品・中間財の生産にとどまらず、かつては専ら企業の内部で行われていた管理的な業務まで、外国に、しかも社外に移転され、旧来の貿易統計や国際収支統計だけでは把握し切れない状態になっている。こうしたことから、RIETIにおいて、日本企業の海外アウトソーシングに関する独自の調査を行い、現状把握を行うとともに、その調査結果を活用して経済分析を進めた。

今回の調査によれば、日本の製造業における中堅・大企業で海外にアウトソーシングを行っている企業は、5年間で大幅に増加したとはいえ、およそ5社に1社の割合にとどまる。仕向先としては、中国が過半を占め、ASEANが次ぐ。対象業務は部品製造や最終組立が中心で、サービスのアウトソーシングは未だごく限られている。相手先企業のうち4割は自社の海外子会社が占める。今後、海外アウトソーシングを拡大していくには、海外企業に関する情報提供の充実、中国現地企業の技術力向上、現地国のサービス関連規制緩和等が重要であると企業は認識していることもわかった。

また、今回調査のミクロ・データを用いた分析の結果、海外アウトソーシングの結果として企業の生産性が有意に向上していると見られること、海外アウトソーシング相手として自社の海外子会社を選択する企業は資本集約的であることなどが明らかになった。これらの実証分析結果は、企業の異質性に着目した「新新貿易理論」を企業レベルで直接に検証する試みと位置付けられる。