NTBFsによるハイテク産業形成の条件

執筆者 西澤 昭夫  (東北大学)
発行日/NO. 2010年11月  10-P-017
研究プロジェクト New Technology‐based Firms(NTBFs)の簇業・成長・集積のためのEco-systemの構築
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概要

本稿では、わが国におけるベンチャー企業支援策のMissing Linkが、「大学発ベンチャー1000社計画」に代表されるマクロ政策とベンチャー企業の簇業・成長・集積といったミクロ活動を繋ぐ、メゾ組織としての地域におけるEco-systemの欠落にあったのではないかという問題意識のもと、その必要性とともに、Eco-system構築モデルを提示する。

Eco-systemの必要性に関していえば、ベンチャー企業の始原形態をNew Technology-based Firms(NTBFs)に求め、NTBFsが、産業構造の転換によって衰退したボストンにおいて、MITの研究成果を活用したイノベーション創出を通じるハイテク産業形成の担い手として登場した事実と、「二重の創業リスク」を負うその企業特性から、リスク軽減と簇業・成長・集積に向けたEco-systemとしての「軍需-MIT-ARD」というボストンモデル構築にいたる必然性を明らかにした。

ボストンモデルは、Silicon Valleyを生み出しただけでなく、スタグフレーションからアメリカ経済の再生を狙うCloning Silicon Valley政策として全米に展開され、オースティンなどハイテク産業形成の成功事例が出現する。そこで、こうした成功事例を踏まえ、そのモデル化を試みた先行研究を整理し、Eco-system構築モデルの提示を試みた。

最後に、地域におけるEco-systemとRegional Innovation System (RIS)との差異を示しつつ、地域において創発的に構築されるEco-systemがInfluencerという独自の機能を果たす個人に依存せざるをなくなった点を「最後の難問(Aporia)」として提起し、その解決方向を究明するとともに、わが国におけるベンチャー企業政策の新たな展開に対するインプリケーションを提示しようと試みたものである。