サイエンス型産業 における国際競争力低下要因を探る:半導体産業の事例から

概要

本論では、複雑性が急増しているテクノロジーやマーケットのクロック・スピードになかなかついて行けなくなってきている日本勢の様子を、半導体産業に関連した2つの事例を取り上げて、可能な限りの(人の結びつきという意味での)臨場感を提示しながら一目瞭然化する。より具体的には、2000年前後を相変化時期とする半導体(High-k/Metal Gate)プロセス技術と1990年前後を相変化時期とするシステム化実装技術という時代や性質の異なる2つの事例を取り上げる。前者については、ネットワーク分析に基づいて日本的な研究開発システムの特徴を示すミクロビューとマクロビューを提示し、個別には優れた要素技術を保有する日本勢が世界の中で顕著に孤立化していく様子を示す。後者については、個別には優れた要素技術を保有していた日本勢が、インテル流“プラットフォーム”戦略によって生み出された半導体エコシステム内で、さらなる下位システムとして位置づけられ競争力を低下させていった様子を示す。その際、特に、組織内・組織間における情報の応答速度、転送速度、組織内・組織間にビルト・インされているコミュニケーション構造の特性について注目する。さらに、日本勢の場合、これらの速度を革命的に向上させることのできる筈のICT(Information and Communication Technology)をなぜなかなか組織の“中枢神経系”として活用できないのかについて、Zuboff (1984)の指摘したICTの二面性(あらゆる事柄を自動化する能力と一目瞭然化する能力)と日本文化を特徴付ける自律分散性(その結果としての属人性)に着目しながら私論を提示する。