新産業におけるプラント所有主体変化と製品戦略・生産性:日本の綿紡績業,1900-1911年

執筆者 岡崎 哲二  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2010年11月  10-P-009
研究プロジェクト 少子高齢化のもとでの経済成長
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概要

経済全体の効率性を高めるための方法として、資産の所有をある主体からそれをより適切に管理・使用することができる主体に移すという方法があることが知られている。本論文では、この問題を、20世紀初期における日本の綿紡績業を対象として検討した。1880年代に勃興した日本の綿紡績業は1900年代に企業淘汰の局面を迎え、多くのプラントが所有主体の変化を経験した。この事実に着目して本論文では、当時、農商務省が収集したプラント・レベルのデータを用いて、所有主体の変化を経験したこれらのプラントのパフォーマンスを変化の前後の期間を通じて観察し、所有主体変化を経験しなかったプラントの同じ期間のパフォーマンスと比較した。

その結果、第1に、プラントの所有主体変化がプラントの製品戦略の変化をもたらしたことが明らかになった。第2に、所有主体変化の結果、プラントのTFP、機械生産性、収益性が有意に向上した。新しい所有主体の下で、プラントはより適切かつ効率的に経営されるようになったといえる。この時期の綿紡績業が初期の成長後の企業淘汰局面にあったことを考慮すると、以上の結果から、新産業の発展パターンに関する新しい知見を引き出すことができる。すなわち、新産業の初期の成長局面ではプラントは必ずしも適切な所有主体によって設立されない可能性がある。そのことが成長局面の後に広く見られる急激な企業淘汰の1つの原因となり、企業淘汰の結果、新産業のプラントは、それをより適切かつ効率的に経営する能力を持つ新しい所有主体に移って行く。そしてその結果として産業全体の効率性が上昇し、新産業が持続的な成長軌道に乗ると見ることができる。