地域金融の健全性と研究開発活動

執筆者 後藤 康雄  (上席研究員)
発行日/NO. 2010年10月  10-J-052
研究プロジェクト 金融の安定性と経済構造
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概要

(本稿は、英語版のディスカッション・ペーパー(10-E-047)の日本語版です。)



金融から実体経済に及ぶ影響を念頭に置きつつ、金融と実体経済活動の関係を、新たな理論や手法に基づいて分析する研究が盛んに行われている。本稿の関心は、地域金融の健全性と当該地域の企業の研究開発(R&D)活動の関係である。金融危機が深刻化し終息に向かった1990年代末から2000年代半ばの地域金融機関の財務指標から地域金融の健全度を測り、当該地域に所在する企業の研究開発費などとの関係についての統計的な検証を試みた。

分析の結果、大企業を含めた全サンプルを用いると、地域金融の健全性と研究開発活動は概ね正の相関を示しつつも、必ずしも強い関係とはいえない。しかし、(i) 大企業に比べ金融制約が強いとみられる中小企業にサンプルを絞り、(ii) 複数の銀行財務指標から共通成分を抽出した値を説明変数に用いると、かなり明瞭な関係が観察される。こうした傾向は、金融健全性が内生性を持つ可能性や、金融以外の地域要素の存在を考慮した推定でも成立する。さらに、研究開発に関する回答はゼロ値が多いというデータ面の特性を考慮したトービット推定を行うと、関係は一段と強くなる。本稿の実証結果からは、地域経済の活性化における地域金融の役割の大きさが示唆される。金融システムを安定させるためのプルーデンス政策は、地域経済の発展に対しても意味を持つ可能性がある。