地域ポテンシャルと賃金格差、地域統合と雇用分布のシミュレーション
―地域間産業連関構造を考慮したNEGモデルの実証―

執筆者 中村 良平  (ファカルティフェロー) /猪原 龍介  (青森公立大学) /森田 学  (価値総合研究所)
発行日/NO. 2010年5月  10-J-031
研究プロジェクト 自立型地域経済システムに関する研究
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概要

本稿では、日本の地域格差(賃金格差)をNEGモデルで検証する。欧米での先行研究例として、HansonやBrakman et al. の直接推定方法とRedding and Venables の二段階推定方法があるが、本研究では、後者の問題点を改善した推定法を提示する中で、先行研究ではできなかった地域産業連関構造を考慮したポテンシャル推定を試みた。具体的には、NEGで導かれた地域ポテンシャルの考え方を使い、地域間交易データ、物価指数、県民所得などのデータを用いて各地域の需要ポテンシャルと供給ポテンシャルを推計し、それらが地域の優位性(賃金水準)にどのような影響を与えるかを実証的に分析した。そして、こうした分析結果を踏まえ、都道府県の地域統合がなされた場合の地域ポテンシャルの変化による地域競争力の変化、さらに地域間交易費用が変化した状況での労働分布についてシミュレーション分析を行った。そこでは、地域統合は多くの地域で地域競争力を高め、また輸送費用の低下は地方分散を導くことが示される。これは、輸送費用が高い場合には市場の大きい中心地域に生産活動が集中化するが、輸送費用の低下とともに地域間の財の輸送が容易になるため、地方へ生産活動が分散化することを表している。これは、現在の工業の地方への分散化と一致する。