労働時間、企業経営、そして働く人-どういう人がどういう企業で労働時間が長くなってきていると感じるか-

執筆者 守島 基博  (一橋大学)
発行日/NO. 2010年2月  10-J-011
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概要

本稿の問題意識は、「2000年代初めに、どういう企業で働く、どういう人が、労働時間が長くなっていると感じていたか」という問いである。バブル経済の崩壊以降15年ほど、わが国の企業は、多くの経営改革および人事改革を実施し、またこの時期には、組織と人の関係について、より自律的な価値観が浸透した時期だとも言われている。

本稿では、こうした経営改革、人事改革、働く人の新たな意識が、労働時間の増加とどのように関連するのかについて、2004年および05年に実施された質問紙データを用いて検討する。結果に基づく問いへの答えを大まかに要約すれば、

1)株主価値重視でのガバナンス改革と、製品低価格化・開発のスピードアップを図っており、

2)単に成果主義的な賃金制度ではなく、現場での人材管理を徹底している企業に勤める、

3)成果主義や自律的能力開発に象徴される企業と人の短期的な交換関係に賛成せず、その企業での長期的なキャリアを望んでいる人材

が労働時間の増加を認知していることが発見された。いうなれば、企業が株主利益重視へと変わりつつあり、そのためにコストダウン、スピードアップなどの経営施策を導入し、さらに現場管理を徹底する中で、それでも企業との長期的な雇用関係のなかで評価され、上昇していくキャリアを高く評価する働き手である。労働時間というのは、企業の経営努力の結果と、“自律的な”働く人の選択として起こる現象であり、この時期には、こうした要素が総体的に労働時間を増加させる方向に働いていたようだ。