発明者による先行特許認識と特許後方引用

執筆者 和田哲夫  (学習院大学)
発行日/NO. 2010年1月  10-J-001
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概要

特許引用により、知識フローないし技術累積関係を計量することができる、という前提に基づいて、多数の実証研究が行われてきている。一方、ある発明にとって複数の先行技術が基礎にあった場合には、それら先行技術が等しく影響を与えたというよりは、寄与度に差があると考える方が自然と考えられる。今まで明示的に扱われていないこの寄与度の差を検討するため、2008年に実施されたRIETI発明者サーベイの追加調査を活用し、発明者が指摘した重要先行特許の選択要因を分析した。その結果、先行引用特許の審査官による被引用(前方引用)特許数が多いとき、発明者も自発明にとって重要な先行技術であったとサーベイ回答にて指摘する傾向があることがわかった。さらに、2007年に先行実施された発明者サーベイの結果を再検討した結果、サーベイ対象特許が引用する先行特許それぞれが得た審査官被引用数のうち、最大値を取り出してサーベイ対象特許を代表させると、発明者の認識する先行技術の有無と正の有意な相関がみられることがわかった。従来の知識フロー計測ではノイズと考えられてきた審査官による特許引用は、企業間の技術的累積関係を計量する補助手段として有用性を持つことが確認された。