日本のメインバンク関係:モニタリングからリスクヘッジへ

執筆者 広田真一  (早稲田大学)
発行日/NO. 2009年8月  09-J-023
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概要

本稿では、日本のメインバンク関係の現状とその機能を、企業とメインバンクの取引関係の調査と企業・銀行へのインタビュー結果から考察する。

まず、日本の大企業約500社とそのメインバンクの取引関係を1973年から2008年までの35年にわたって調査し、その最近の変化を検討したところ、次のようなことがわかった。(1)企業とメインバンクの関係は今も固定的であり、ほとんどの企業はメインバンクを変更していない、(2)1980年代、90年代には、企業の負債比率の低下を反映して銀行借入・メインバンク借入の重要性も低下した、(3)ただし1990年代以降はメインバンク借入への依存度はほぼ横ばいである、(4)企業とメインバンクの持株面、役員派遣面のつながりは、2000年代に入って弱まっている、(5)企業が近年の新しい金融手段(コミットメントライン、シンジケートローン)を利用する場合には、メインバンクにその主幹事を頼むケースが多い、(6)企業の社債発行の際の発行業務(財務代理人、引受の主幹事)に関しても、メインバンクならびにその証券子会社が大きなシェアを占めている。これらの調査結果は、企業とメインバンクが、融資・持株・役員面では結びつきを弱めながらも、今なお密接な関係をもっていることを示している。

それでは、なぜ企業は現在もメインバンクとの取引関係を維持しているのであろうか。それを企業・銀行へのインタビュー調査で探ったところ、企業とメインバンクの間に、「企業がいつもメインバンクを大事にする代わりに、必要なときに資金を供給してもらう、危なくなったら助けてもらう」という暗黙の了解が今もなお存在していることがわかった。このことは、金融の市場化・グローバル化が進展した今日においても、メインバンクが企業の資金調達リスク、倒産リスクをヘッジする役割を果たしていることを示唆する。さらに、企業がメインバンクに情報や金融サービスの提供を求めていることもわかった。これらのことを総合すると、日本のメインバンクの機能は、かつてはモニタリング・ガバナンスが中心であったが、現在ではリスクヘッジ・金融サービスの提供が重要になっていると考えられる。