ITイノベーションと経済成長:マクロレベル生産性におけるムーアの法則の重要性

執筆者 元橋 一之  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2009年6月  09-J-016
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概要

本稿においては日本の経済成長におけるITイノベーションや生産性の位置づけについてマクロレベルの成長要因分析(1975年~2007年)を行った。また、ITの技術革新の源泉であるムーアの法則に象徴される半導体技術革新に影響度についても計測を行った。主な結果としては、以下のとおりである。

・経済成長率は1990年代に大きく落ち込み全要素生産性の伸び率が鈍化した。2000年に入って経済成長率に持ち直しが見られるが、TFPの成長率は改善のテンポが遅い。

・90年代と2000年代は生産要素投入の状況が大きく異なる。90年代は非IT資本の寄与度が大きい反面、労働投入はマイナスの寄与となった。2000年代は非IT資本の寄与度が小さくなり、労働投入の寄与が大きくなっている。

・IT資本の経済成長に対する寄与度は1975年以降、期間を通じて大きくなっている。2000年代は経済成長の約1/3がIT資本の投入によって説明できる。

・全要素生産性に対するITセクターの影響度も高まっている。2000年代のTFP成長率0.57%のうち、0.25%はITセクター(特にコンピュータと通信機械)によって説明できる。マクロ経済における名目シェアは小さいが、ITイノベーションのマクロレベル生産性に与える影響は無視できない。

・これらのITセクターの生産性の源泉として、ムーアの法則に代表される半導体技術革新の影響が大きいことが分かった。2000年代においては、ITセクターの0.25%のうち0.04%ポイント、また自動車などの非ITセクターにおける生産性上昇分のうち0.09%ポイント、合計0.13%が半導体技術革新によるものである。