中国の台頭とその近隣外交――日本外交への示唆

執筆者 高原明生  (東京大学)
発行日/NO. 2009年6月  09-J-012
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概要

現在、中国の台頭、そしてその近隣諸国との関係は、複雑な状況にある。急速な経済成長が、国民の全般的な生活水準の向上と国家の国際的な地位の向上をもたらしたことは間違いない。それが共産党独裁政権の正統性と社会の基本的な安定の基礎となっていることも確かだが、いまや経済成長は曲がり角に到達し、中国社会の動揺もますます体感されるようになっている。だが、他国と比べれば中国の成長率はまだ高い。政治的な混乱が生じない限り、世界と地域における中国のプレゼンスは引き続き高まっていくことだろう。中国が中国脅威論を警戒し、平和的発展を強調する外交的な協調姿勢を保ち続けようとすることも容易に予測できる。しかしそれと同時に中国は軍拡を進め、他国との具体的な紛争においては強硬姿勢を決して崩さない。その内政と外交は密接に連動しており、国内が動揺すればするほど、毅然とした対外姿勢を打ち出すことが求められる事情は他国と同様である。こうした中国の動向を踏まえると、その台頭に関するリスクを下げ、チャンスを活かすための日本外交の課題には、1)中国の内発的社会発展への関与と人間の安全保障への支援、2)東アジアでの民主的な地域レジームの構築、3)軍事的な信頼醸成の促進と日米安全保障協力の維持、そして4)日中間の相互理解のための対話と交流の促進などが挙げられる。