港湾の効率的効果的な整備・運営のあり方に関する財政分析-整備・規制・運営の構造分析-

執筆者 赤井伸郎  (ファカルティフェロー) /上村敏之  (関西学院大学) /澤野孝一朗  (名古屋市立大学) /竹本亨  (帝塚山大学) /横見宗樹  (大阪商業大学)
発行日/NO. 2009年5月  09-J-010
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概要

これまで、均衡ある国土の発展を目指し、国による再分配政策によって、重要な公共インフラとして日本全国に港湾が整備されてきた。しかしながら、低成長・財政再建の下、これまでのような均一的な整備を行うことはできない。「選択と集中」が求められている。また、運営面においても、効率的で効果的な運営が求められている。多額の負債を抱える日本(国・地方)が、経済成長と豊かな生活を実現するべく、今後、限られた財源をいかに有効に用い、港湾をいかに整備・運営していくのかが今問われている。

政府においても、「今後推進すべき産業の国際競争力強化等のための具体的施策」として、整備と運営の両面から、「スーパー中枢港湾と地域の港湾との適切な役割分担」が重要であるとし、わが国港湾の広域的な連携の強化、国と地方の協働のあり方を明確にすることが重要であるとしている。

これらを踏まえると、(1)スーパー中枢港湾と地域の港湾との適切な役割分担を踏まえた国の港湾整備のあり方の検証の必要性と、(2)すでに整備された港湾の広域化・(国・地方・民の)連携を通じた港湾運営のあり方の検証の必要性が見えてくる。しかしながら、これまでの研究では、これらの視点に関しては、データによる検証がなされていなかった。

そこで本稿では、新しい研究として以下の4つの研究を行った。

1.(第2章):これまでの港湾整備の財政資金配分を初めて明らかにしていた。

2.(第3章):規制の実態を整理し、効率的運営に向けた障害を明示した。

3.(第4章):リードタイムデータを効率化指標として初めて用いて、効率的な港湾運営に向けた施策の効果を、明らかにした。

4.(第5章):港湾の財政データを初めて用いて、港湾コストの構造を明らかにした。



研究の結果、以下のことが明らかとなった。

1.(第2章):これまで、均衡ある国土の発展主義で港湾整備がなされてきた。また、近年は、都市に配分がなされてきている。その一方で、整備には、これまで8兆円ほどの借金がなされてきており、道州制を導入する場合には、その借金の国と地方の配分も問題になろう。今後の整備に向けては、より一層の透明性が必要である。

2.(第3章):特区でさまざまな取り組みがなされたものの、効果は限定的である。国際的な流れに追随していくためには、国内特有の慣習の改革が必要となろう。

3.(第4章):港湾運営効率化の取り組みはリードタイムなど港湾運営の効率化に寄与していることが明らかとなった。

4.(第5章):港湾のコスト構造から、港湾連携がコスト効率化に効果的であることが明らかとなった。



このように、本稿の研究から、より透明性のある効果的な整備とともに、日本特有の慣習などの改革を進めながら、より一層の港湾運営の効率化を進めるべきであることがわかる。また、外部性がある港湾間の連携が効果的であることが、港湾コストの構造分析から明らかとなった。

本稿は、公共政策評価、財政評価の視点から、これまで使われていなかった新しいデータを発掘し、これまでの港湾整備、港湾運営にかかわる政策評価に加え、今後の政策のあり方に関わる港湾コスト構造の解明など、今後の港湾政策のあり方を考える上で、いくつかの重要な視点を提示した。検証の厳密性については課題も残るが、今後の研究の発展に寄与することを期待する。