高等教育における評価と資源配分-業績連動型交付金の可能性と課題-

執筆者 田中秀明  (一橋大学経済研究所)
発行日/NO. 2009年5月  09-J-008
ダウンロード/関連リンク

概要

2004年4月、各国立大学はそれぞれ法人化され、その基盤的な教育・研究費用は、使途に制限のない運営費交付金という形で中央政府から配分されることになった。運営費交付金は基本的には前年度の交付額に係数を乗じて積算される。結局、運営費交付金の配分は旧国立学校特別会計時代の歴史的経緯を反映したものであり、教育・研究の質向上へのインセンティブが乏しい。こうした批判を受けて、政府は、次期中期計画(2010年度開始)において、各大学の努力と成果を踏まえて運営費交付金を配分することを決定するなど、運営費交付金改革が重要課題となっている。本稿の目的は、現在の運営費交付金及び高等教育評価の問題を分析するとともに、評価に基づき資源を配分する業績連動型交付金の可能性と課題を整理することにある。また、諸外国における業績連動型交付金の仕組みと成果を分析するとともに、学生数や業績等に基づく新たな交付金配分ルールを導入した場合の運営費交付金の各大学への配分を試算する。現在の運営費交付金は、学生数や教員数に照らして大学間で公平な配分とはなっておらず、配分ルールが不透明である。中期目標・中期計画における教育・研究評価の対象はプロセスや業務・活動が中心であり、教育・研究のアウトカムや質を測る業績指標はほとんどない。中期目標の評価は各大学法人が定めた目標の達成度の評価であり、大学共通のベンチマークに基づき評価しているわけではない。こうした評価結果を次期中期目標期間中の運営費交付金の算定に反映させることは、評価活動や資源配分に歪みをもたらす危険性が高い。政府と大学の間には情報の非対称性や取引コスト等の問題があり、これらを解決し教育・研究の質向上を図るためには、国立大学法人の役割と機能を明確にした上で、ハイブリッド型(外形指標及び業績指標の両方を基準)の運営費交付金を導入すべきである。具体策としては、教育費と研究費等を分離するとともに、学生数等を基準とする公平かつ透明な配分ルールを導入する必要がある。また、業績連動型交付金を導入するためには、教育・研究の質やアウトカムの測定方法を開発するとともに、その副作用を抑制する仕組みが必要である。