原油価格高騰などに伴う価格転嫁に関する動態的分析

執筆者 戒能 一成  (研究員)
発行日/NO. 2008年11月  08-J-061
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概要

日本経済は、2005年からの原油価格の連続的高騰を受け著しいエネルギー関連費用などの増加に直面している。しかし、当該エネルギー関連費用などの増加分の財サービス価格への転嫁については、市場での需給構造上十分な価格転嫁が進んでいないとの意見がある。

また、規制産業である電力・ガス事業の家庭用料金などにおいては、燃料・原料費用変化を一定期間後自動的に転嫁することを認める「燃料・原料費調整制度」などが措置されているが、費用転嫁迄の期間の運転資金負担増大などから関連制度の見直しを求める意見がある。

本稿においては、近年の原油・石油製品の価格などに関する月次の公的統計を基礎に、石油製品製造・販売業やエネルギー多消費製造業などにおいて、原油価格などの高騰による費用増加分が具体的にどの程度の転嫁率と調整時間で価格転嫁されており、どの程度が経営努力により供給側で吸収されているのかを分析することを試みた。

当該分析の結果、近年の石油製品への原油価格高騰分の価格転嫁については約96%程度

であり、重質油種を中心に4%程度が経営努力により吸収されているものと評価された。

エネルギー多消費製造業の多くでは、エネルギー原材料費用の高騰分の60~93%程度が価格転嫁されており、残余は経営努力により吸収されているか、あるいは見掛上100%を超える価格転嫁が行われたように見える場合には製品需給の逼迫や省エネルギー技術水準といった市場構造や生産技術格差など費用以外の要因による影響で相殺されていると評価された。

また、石油製品やエネルギー多消費製造業の製品価格ではエネルギー原材料価格の上昇直後から価格転嫁が開始されるが、11~30カ月に亘り影響が残ることが観察された。

当該結果から、エネルギー原材料価格の高騰に際し市場での需給構造上十分な価格転嫁が進まない場合や長期の影響が残存する場合があることが確認された。さらに、現在3~6カ月後に100%の価格転嫁を認めている「燃料・原料費調整制度」などについては、転嫁率・調整時間において影響の「平滑化」のための見直しを検討する必要があるものと考えられる。