オンライン市場における価格変動の統計的分析

執筆者 水野貴之  (一橋大学) /渡辺 努  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2008年9月  08-J-052
ダウンロード/関連リンク

概要

本稿では、価格比較サイト「価格.com」において仮想店舗が提示する価格と、それに対する消費者のクリック行動を秒単位で記録した新しいデータセットを用いて、店舗の価格設定行動と消費者の購買行動を分析した。本稿の主要なファインディングは以下のとおりである。第1に、店舗の価格順位(その店舗の価格がその時点において何番目に安いか)が1位でない場合でもクリックが発生する確率はゼロではない。ただし、価格順位が下がるとクリック確率は下がり、価格順位とクリック確率(の対数値)の間には線形に近い関係が存在する。この線形の関係は、消費者に店舗の好みがあり、消費者が自分の好みの店舗群の中で最も安い価格を提示する店舗を選択していることを示唆している。第2に、各店舗が提示する価格の平均値は、ドリフト付きのランダムウォークに従っている。これは価格変動の大部分が店舗が保有する在庫のランダムな増減によって引き起こされていることを示している。ただし、価格が急落する局面などではランダムウォークからの乖離がみられ、各店舗の価格づけの戦略的補完性が値崩れを招いている可能性を示唆している。