知的財産制度の新たな地平線・序説―これからの知的財産制度のあり方への見直しの視点―

執筆者 清川 寛  (上席研究員)
発行日/NO. 2008年9月  08-P-009
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概要

いわゆるプロパテント化政策は80年代以降、グローバルで、また我が国でも広がってきているが、他方でその先駆者だった米や欧州において、その見直しが行われつつある。

他方時代は、Web2.0に代表されるネットワーク化や技術のより高度化複雑化からオープン・イノベーションの進展等、そのパラダイムは大きく変換している。このような中で、従前通りプロパテント一辺倒でよいのか、見直しが必要ではないか。ただ見直すとして如何なる視点から見直すべきか。本稿においては、筆者の感じるところ、従来は「プロパテント」の一言で遮二無二に、一見権利より(=プロ権利)の方向に進んできたことに対し、知的財産権制度の原理からその排他性の正当化根拠にまで立ち返り、その「見直しの視点」を探るものである。その際、公共(倫理学・競争政策)との観点、また社会制度としての効率性等の観点も加える。特に前述のパラダイム変遷を踏まえ、知財制度の目的-少なくとも現時点の我が国においての目的-はイノベーションの促進であり、そのためのオープン・イノベーションの進展からの「市場取引」というこの観点を強調したい(本文での結論を先取りすると、これは排他権の正当化にも新たな光を当てるものと考える)。

また本稿では、その提示する「見直しの視点」の具体的当てはめとして、特許制度についていくつかの見直し案を試みに提示する。

なおそもそも見直しには、その前提として現状の把握が必要なところ、特に特許制度の役割についてかつてのデジタルIT機器産業(特許に関連深いが、残念ながら90年代移行、後発国の追い上げ等からその地位が低下している)での分析については、大部となったので、巻末に補説で述べることとする(その結論は特許制度は重要であることに変わりない)。