流通業における規制緩和の効果:少子高齢化社会へのインプリケーション

執筆者 宇南山卓  (神戸大学) /慶田昌之  (東京大学)
発行日/NO. 2008年9月  08-J-047
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概要

本稿では、流通業における効率化が、少子高齢化社会へ与えるインプリケーションを考察する。一般に流通業の生産性を計測することは困難であるが、ここでは、規制緩和に伴う変化を分析することで、流通業の効率化が経済厚生に与える影響を計測した。

流通業の効率化は、高齢化社会において2つの観点から重要な論点となる。1つは、イノベーションの達成という観点である。もう1つは、高齢者や就業している女性にとっては、購買行動そのものの負担が大きく、生活の質を左右するという観点である。

具体的には、1999年3月に実施された規制緩和のうち、特に影響の大きかった、ドリンク剤販売の実質自由化の効果を分析することで、流通業の効率化がもたらす影響を分析した。規制緩和によって、ほとんど全てのスーパーでドリンク剤が販売されるようになり、販売数量も急激に増加した。一方で、価格はそれほど低下しておらず、規制緩和の効果が価格以外の要因を通じて消費者に影響を与えていたことが示唆された。

さらに、販売している店舗が増加したこと自体が、消費者にとっての利便性を向上させたと考え、規制緩和による価格低下の効果と、非価格効果である利便性の向上を分解できるモデルを構築した。推定の結果、規制緩和は、補償変分で評価して151億円の経済厚生改善効果があった。さらに、その効果の90%以上は、価格低下によるものではなく、非価格要因である利便性の向上によってもたらされたものであることが分かった。

すなわち、流通業の効率化は、重要なイノベーションの手段であり、利便性を通じて生活の質を向上させる効果もある、ことが示されたのである。