国際化する日本企業の実像-企業レベルデータに基づく分析-

執筆者 若杉 隆平  (研究主幹) /戸堂康之 (東京大学)/佐藤仁志 (アジア経済研究所)/西岡修一郎 (ヴィジティングスカラー)/松浦 寿幸  (研究員) /伊藤 萬里  (ヴィジティングスカラー) /田中鮎夢  (京都大学, 経済産業研究所)
発行日/NO. 2008年9月  08-J-046
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概要

企業の生産性の高さが輸出や直接投資への参入を促す要因となることは、Melitz (2003), Helpman et al. (2004)らにより理論的に明らかにされてきた。これらの理論分析の現実への妥当性について、Bernard and Jensen (1995, 1999), Bernard et al. (2007) らがアメリカ企業に関して、Head and Ries (2001, 2003), Kimura and Kiyota (2006), Tomiura (2007)らが日本企業に関して実証的に明らかにしてきた。一方、Mayer and Ottaviano (2007) は欧州企業についてより包括的な研究を行っている。本研究は、企業の生産性と輸出・直接投資の関係について欧米企業に関する分析と比較することが可能となるよう、Mayer and Ottaviano (2007) と類似の分析手法を用いることによって、日本企業に関して包括的な実証分析を行うことを目的としている。

『企業活動基本調査』『海外事業活動基本調査』の企業レベルデータに基づく実証分析の結果、日本企業では、(i) 少数の上位輸出企業が輸出総額の大半を占めること、(ii) 売上高に占める輸出比率の高い企業は少ないが、それらの企業が輸出の多くを占めること、(iii) 国際化企業は非国際化企業よりもパフォーマンスが高いこと、(iv) 輸出企業に占める外資企業の割合が高いこと、(v) 海外現地法人売上高の決定において、1企業当たりの売上高よりも企業数が影響を有することが確認される。これらの点は欧州企業においても同様に見られる。

他方、日本企業が欧州企業と異なる点として、(vi) 上位輸出企業への輸出総額の集中は弱まる傾向が見られること、(vii) 輸出企業の割合が高まっていること、(viii) 輸出比率の高い企業が少ないこと、(ix) 非国際化企業・輸出企業・FDI企業の間での生産性格差が小さいこと、特に、国内市場、輸出、FDIへの参入の境界となる生産性の水準に大きな差異は見られないことから、生産性以外の要因が輸出とFDIの決定に影響を与えている可能性があること、(x) 国際化企業の技能集約度が非国際化企業に比べて高まっていること、(xi) 外資企業の割合が低いこと、(xii)国際化企業と非国際化企業の生産性格差は輸出・FDIの開始後に拡大すること、(xiii) 海外現地法人売上高の決定に与える進出先距離の影響が大きいことが指摘される。これらの諸特性がどのような要因によるものかについては今後更なる実証分析を必要とする。