先行技術の量的指標としての特許引用数

執筆者 和田哲夫  (学習院大学)
発行日/NO. 2008年8月  08-J-038
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概要

企業間の人材異動、ベンチャーキャピタルを通じた情報の交流、技術ライセンス、大学との研究開発協力、などを通じた「オープン・イノベーション」が、実際にどのような影響を発明に与えたか、統計的に把握するためには、先行技術に関する知識を追跡し計量する手段が必要である。従来、この目的で広く利用されてきた特許引用には、ノイズも多く含まれていることが知られているが、同一企業組織の中から得られた知識と、企業組織外から得られた知識が特許引用に同等に反映しているかは、検証されていない。企業組織の枠を超えた技術知識の交流を量的に測定し、また企業組織内の連鎖的イノベーションに対するオープン・イノベーションが与えた効果を理解する上で、企業内外の比較可能性は無視できない問題である。そこで、発明者サーベイの結果を用いて、同一企業内・企業外からの先行技術の吸収に関する発明者認識と特許引用数が整合的か、また発明者認識と引用数の関係に企業組織内外で差があるか、検証した。その結果、先行特許があると回答した発明者について、発明者による先行特許の社内外の区別と、特許引用に関する企業組織の内外の区別を確認したところ良く一致していた。また、企業内からの特許引用数(number of backward self-citation)は、発明者の先行技術の有無の認識とも一致した。しかし企業外からの特許引用数をそのまま用いる限り、先行特許の有無に関する発明者の認識とは統計的な関係がほとんどみられなかった。したがって、企業内からの特許引用数と比べ、企業外からの特許引用数は、発明者認識の代理変数として異なる性格を持っている、ということがいえる。企業間の知識交流について行われてきた多くの実証研究に対して、研究基盤の再検証が必要である、という示唆を与える結果となった。