企業組織の変容と労働法学の課題

執筆者 島田陽一  (早稲田大学)
発行日/NO. 2008年5月  08-J-020
ダウンロード/関連リンク

概要

労働関係における法を研究する労働法学にとって、企業において展開される労働関係と労働市場との有機的な関係を解明し、両者について、そのときどきの最適な法制度のあり方を示すことが重要な課題となる。しかし、これまでは労働関係が基本的に各企業に閉じられており、労働市場の機能する余地が極めて低かったため、労働法学が労働市場に多くの関心を抱かなかった。

今日のように、企業組織のあり方が変容し、企業の資金調達や統治、労働関係という多様な局面において、市場的な要素が取り入れられるようになると、労働法学も企業組織という閉じた世界だけを想定しているだけでは不十分であり、まさに企業と労働市場との有機関連を意識した理論を構築する必要に迫られているといえる。そして、それと同時に企業における労働関係のあり方も従来とは異なる仕組みが導入される必要がある。

本報告は、これらの労働法学の課題を意識して、従来の労働関係および労働法学において、労働市場と企業との関連を意識することなく、企業において閉じた労働関係を対象としてきた理由とその問題点を明らかにし、企業組織の変容に伴って、企業における労働関係自体を再構築すべきであること、および労働市場を本格的に整備して、労働市場と企業との有機的連関を構築し、企業社会に換わる新しい社会的イメージの提示が必要であることを提案する。