労働法改革の基盤と方向性―欧米の議論と日本

執筆者 水町勇一郎  (東京大学)
発行日/NO. 2008年5月  08-J-018
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概要

世界的に労働法改革が進められている。そもそも大量生産・大量消費型の工業化社会において形成・発展してきた旧来の労働法が、近年の社会の複雑化・グローバル化の動きに対応できなくなってきたからである。

これらの変化・改革の基盤にある新たな法理論として注目されるのが、ヨーロッパで提唱されている「手続的規制」理論と、アメリカで提示されている「構造的アプローチ」である。前者は政治哲学的な思考、後者は経済学的な思考に基づくものである点で、両者は異なる理論的基盤をもつものである。しかし、多様化・複雑化する社会の実態に対応するために新たな理論・アプローチを提唱している点、そこで重視されているのは動態的なプロセスである点で、両者は共通している。

この2つの法理論に照らして日本の労働法制の現状について考察すると、労働法改革に向けた課題と方向性がみえてくる。重要な課題は、多様な労働者の意見を反映できる分権的なコミュニケーションの基盤を構築すること、および、労働法の規制内容自体も国家が詳細なルールを定める事前の規制から当事者による集団的なコミュニケーションを重視する事後的な規制へと移行していくことである。