地域貿易協定による関税自由化の実態とGATT第24条の規律明確化に与える示唆

執筆者 上野 麻子  (コンサルティングフェロー)
発行日/NO. 2007年9月  07-J-039
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概要

本稿は、物品貿易に関する地域貿易協定について、WTO整合性に関する現行の規律及びそれを取り巻く議論と地域貿易協定における関税自由化の実態を比較することにより、今後の地域貿易協定に対する規律の明確化の方向性について分析を行うものである。先進国間又は先進国・開発途上国間において物品貿易に関する地域貿易協定を締結する場合、GATT第24条に基づき、関税その他の制限的通商規則を「実質上のすべての貿易(substantially all the trade)」について「妥当な期間内(within a reasonable length of time)」に撤廃(eliminated)し、また域外国に対して関税その他の貿易障壁を高めてはならないとされているが、「実質上のすべての貿易」等の定義は明文上明らかではない。また、開発途上国間の地域貿易協定は、授権条項において、関税及び非関税措置の相互削減又は相互撤廃するための取極と規律されるのみで、GATT第24条のような「実質上のすべての貿易」や「妥当な期間内」の関税撤廃といった要件は課されていない。このように地域貿易協定のGATT整合性に係る要件が不明確であるという状況に加え、締結された地域貿易協定に対するWTOにおける審査も十分に機能しているとは言いがたい。一方、地域貿易協定に対する規律及びその運用が不明確な中、地域貿易協定の締結は実態として進んでおり、無秩序な地域貿易協定の乱立を避ける観点から、WTOドーハラウンドのルール交渉において地域貿易協定に関する規律について議論が行われているところであるが、上述の要件についての議論は収斂していない。

本稿は、地域貿易協定の関税に関する「実質上のすべての貿易」及び「妥当な期間内」といった域内要件に関し、WTO等におけるこれまでの議論を整理した上で、既に締結され発効した主要な地域貿易協定に関し、これらの要件との整合性の観点から地域貿易協定の関税自由化の実態について検証することにする。こうした実証的分析を行うことにより、地域貿易協定における関税自由化の実態が現在行われているWTOルール交渉での規律明確化の議論に与え得る影響を考察し、今後のWTOにおける議論の方向性や現実的に合意可能な規律案についての示唆を得ることができると考える。