体化された技術進歩と資本の平均ヴィンテージ

執筆者 徳井丞次  (信州大学経済学部) /乾 友彦  (日本大学経済学部) /金 榮愨  (リサーチアシスタント/一橋大学経済学研究科)
発行日/NO. 2007年9月  07-J-035
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概要

世界的なIT資本への関心の高まりや、日本経済における資本のヴィンテージの高まりへの懸念などから、資本に体化された技術進歩が再び注目されている。われわれは、まず資本の質の向上率(陳腐化率)、資本に体化された技術進歩率、資本の平均ヴィンテージなどの関係を理論的に整理した。次に経済産業省による「企業活動基本調査」から作成したパネルデータを用い、日本の製造業の機械装置について資本の陳腐化率を推定し、機械装置に体化された技術進歩率を評価した。

こうした推定を行うためには、企業が保有するヴィンテージごとの資本の物理的残存量を推計する必要がある。このために、われわれは米国BLSによる資本財種類別の残存率パターンと、JIP2006データベースの産業別の資本財種類別投資系列から、産業ごとの資本財の残存率パターンを作成し、これを各企業の投資系列に当てはめて、ヴィンテージごとの資本の物理的残存量を推計した。

陳腐化率の推定は、Sakellaris and Wilson(2004)の生産関数による推定式に幾つかのコントロール変数を追加し、2種類の非線形推定式と1種類の線形推定式に基づいて行った。推定された機械装置の陳腐化率は、年率8%~22%の幅の値となったが、この推計値の範囲は、生産関数により資本の陳腐化率を推定した他の先行研究と大きな差異はない。また、この推計値から、機械装置に体化された技術進歩率を求めると0.2%~0.4%となる。したがって、宮川・浜潟(2006)によると1990年代において製造業の資本の平均ヴィンテージが2年弱上昇したものと推計されていることから、これは製造業の生産の成長率を0.4~0.8%低下させる効果があったものと推察される。