少子高齢化,ライフサイクルと公的年金財政

執筆者 深尾 光洋  (ファカルティフェロー) /蓮見亮  (経済産業研究所/慶應義塾大学大学院商学研究科/日本経済研究センター) /中田 大悟  (研究員)
発行日/NO. 2007年5月  07-J-019
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概要

厚生労働省より発表された2004年の財政再計算および2007年2月の暫定試算によって、年金財政の安定性は人口減少のみならず、種々の経済実績、特に運用利回りに大きく左右されることが一般にも広く認知されるようになった。

経済学的に考えれば、家計がライフサイクル仮説に従った行動をとった場合、人口構造の高齢化はマクロの資本蓄積の経路に強く影響することで運用利回りにも少なからぬ影響を与えるはずである。そこで本稿では、まず、計算可能な世代重複モデルを使用することによって、日本において今後100年程度の間に予測される、人口動態の変動による利子率の変化について分析を行った。シミュレーションの結果、2030年~60年代にかけて投資収益率が低調となる可能性があり、その傾向は、出生率が低く推移するほど顕著であることが明らかになった。

さらに、本稿では、このシミュレーションによって得られた結果を、日本における現行制度を表現可能な年金財政モデルに適用することによって、人口構成が利子率に与える影響をも織り込んだ年金財政の検証を行った。その結果、人口の減少および高齢化の進行は、被保険者数の減少という直接効果に加えて、高齢化が進むにつれて利子率が低下するという間接効果を通じて年金財政に不利に作用することが示された。この結果は、積立金の残高が積みあがる時期に運用効率の低下が起こる可能性を示唆する。