地域クラスター・ネットワークの構造分析- ‘Small-world’ Networks化した関西医療及び九州半導体産業ネットワーク―

執筆者 坂田 一郎  (コンサルティングフェロー) /梶川裕矢  (東京大学総合研究機構) /武田善行  (東京大学総合研究機構) /柴田尚樹  (東京大学技術経営戦略学専攻) /橋本正洋 (新エネルギー・産業技術総合開発機構)/松島克守 (東京大学総合研究機構)
発行日/NO. 2006年10月  06-J-055
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概要

地域クラスター内に形成されている産学官のネットワークの多様性が、圏域における先端産業の活力の程度を左右している可能性がある。我々は、ネットワークが持つ構造的特徴を多角的に把握した上で、それと先端産業の集中立地や成長との関係について議論する。

具体的には、ネットワーク分析の手法を導入し、近畿広域経済圏の医療関連産業と北部九州広域経済圏の半導体産業の2つを対象に定量的な分析を行った。その結果、第1に、両地域・分野のネットワークが'Small-World' Networksの特性を備えていること、第2に、両ネットワークの内部には、大小さまざまのグループ化された集団(モジュール)が多数存在し、それらが緩やかに結びついた構造を持っていること、第3に、近畿の医療関連産業では、同業種に属する企業群が横に緊密な結合をしてモジュールを作る一方、北部九州のシステムLSI等の半導体産業では、中核メーカー毎の縦系列のモジュールと横の連携が混在しており、両者のアーキテクチュアに違いが見られること、第4に、広域経済圏単位でのネットワークの一体性が高いこと、第5に、ミクロ的な分析として主要なノードに着目すると、産業分野の中核企業、研究大学、商社等がネットワークの中核的な位置づけ(Connector Hub)を占めていることを実証した。

先端技術産業の集中と成長が著しい2地域に、情報・知識の迅速な交換・融合や共同事業、産学連携に適した広域的なネットワークが形成されているという事実は、優れたネットワークの存在が先端産業の育成に寄与している可能性があることを示している。また、同じ大規模・先端産業であっても、中核産業分野、地域の特性によって、ネットワークの構造には差異が存在している。そうした構造上の特徴を踏まえることで、ネットワークの拡張に向けた政策努力をより効果的なものとすることが可能となる。