地域経済統合におけるダンピング防止措置の適用に関する規律-横断的比較を通じた規律導入の条件に関する考察-

執筆者 川島富士雄  (名古屋大学大学院国際開発研究科)
発行日/NO. 2006年8月  06-J-053
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概要

本稿は、各種地域経済統合においてダンピング防止(AD)措置の適用に関し、いかなる規律が導入されているか横断的に比較することを通じ、いかなる条件が整えば、そうした規律が導入されうるか考察するものである。各種地域経済統合は、第1に欧州共同体(EC)、欧州経済地域(EEA)、オーストラリア・ニュージーランド経済緊密化協定(ANZCERTA)、カナダ・チリ自由貿易協定及びEFTA・シンガポール自由貿易協定といったAD措置の適用を廃止したタイプ、第2にシンガポール・ニュージーランド自由貿易協定、シンガポール・ヨルダン自由貿易協定等のようにWTO・AD協定を超える実体的規律(WTOプラス)を導入したタイプ、第3に最近の米国の自由貿易協定等のように何らのWTOプラスも盛り込まないタイプに大きく分けることができる。これらの地域経済統合の経験を、ダンピング成立条件やダンピング防止措置の存在意義に関する諸理論に照らして分析すれば、AD措置を廃止するために必要な条件は、第1に自由貿易の完成による公的市場分断の除去、第2に競争法の調和による私的市場分断の除去であり、第3に競争法による代替的規律の導入と執行協力によってダンピングへの対処方法が与えられれば、さらに廃止がスムーズとなると考えられる。その意味で、AD措置適用廃止は、まさに地域経済統合の「市場統合度を示す指標」ということができよう。他方、AD措置に関しWTOプラスの規律を導入する条件としては、当事国がWTO・AD措置ルール交渉等に向けた先例形成に共通の利益を有すること、当事国間で一方のみが他方にAD措置を適用するようなアンバランスな状況にないこと等を挙げることができる。これらの知見は、WTO・ADルール交渉の進展に向け、また、我が国が今後締結する自由貿易協定/経済連携協定等の交渉実務に対し、一定の示唆を与えると思われる。